不動産鑑定評価基準の総論5章では、鑑定評価を行うために必要な基本的事項について書かれています。
本記事では鑑定理論の論文式試験で暗記しておくべきポイントを独断と偏見も交えてピックアップしました。
基準本文はタップで「表示/非表示」を切り替えられるので、暗記にお役立てください。
暗記した内容を実践で使えるようになるには、過去問演習が必須です。
まずは最新の過去問演習からスタート。
最新のものを全部マスターしたら、1965年から収録されているものに着手が良い気がします。
基本的事項
不動産の鑑定評価を行う場合、大前提として「基本的事項」を決める必要があります。
基本的事項とは
不動産の鑑定評価に当たっては、基本的事項として、対象不動産、価格時点及び価格又は賃料の種類を確定しなければならない。
対象不動産の確定
不動産は物的にも権利的にも複雑になりがちなので「評価対象の不動産がどれなのか?」を明確にする必要があります。
対象不動産の確定とは
対象不動産の確定は、鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定することであり、それは不動産鑑定士が鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産と当該不動産の現実の利用状況とを照合して確認するという実践行為を経て最終的に確定されるべきものである。
対象確定条件
鑑定評価にあたって決めるべき条件を「対象確定条件」といいます。
対象確定条件とは
対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件を対象確定条件という。
対象確定条件は、鑑定評価の対象とする不動産の所在、範囲等の物的事項及び所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項を確定するために必要な条件である
対象確定条件の設定で確認すること
対象確定条件を設定するに当たっては、対象不動産に係る諸事項についての調査及び確認を行った上で、依頼目的に照らして、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないかどうかの観点から当該条件設定の妥当性を確認しなければならない。
対象確定条件の種類
基準では5種類の対象確定条件が列挙されています。
1. 現況所与
不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすること。
2. 独立鑑定評価
不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること。
3. 部分鑑定評価
不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること。
4. 併合鑑定評価又は分割鑑定評価
不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすること。
5. 未竣工建物等鑑定評価
造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること。
価格時点
不動産の価格は日々変動します。
そのため、ある不動産の鑑定評価額を算出するには「いつ時点の価格か?」という前提を決めないと結論が出ません。
価格判定の基準日をいつ時点にするかを決めるのが、価格時点です。
価格時点確定の定義
価格形成要因は、時の経過により変動するものであるから、不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当するものである。したがって、不動産の鑑定評価を行うに当たっては、不動産の価格の判定の基準日を確定する必要があり、この日を価格時点という。
賃料の価格時点
また、賃料の価格時点は、賃料の算定の期間の収益性を反映するものとしてその期間の期首となる。
価格時点の種類
基準では3種類の価格時点が定められています。
価格時点の種類
価格時点は、鑑定評価を行った年月日を基準として現在の場合(現在時点)、過去の場合(過去時点)及び将来の場合(将来時点)に分けられる。
過去時点の鑑定評価
過去時点の鑑定評価は条件付きで認められています。
過去時点の鑑定評価の留意点
過去時点の鑑定評価は、対象不動産の確認等が可能であり、かつ、鑑定評価に必要な要因資料及び事例資料の収集が可能な場合に限り行うことができる。
また、時の経過により対象不動産及びその近隣地域等が価格時点から鑑定評価を行う時点までの間に変化している場合もあるので、このような事情変更のある場合の価格時点における対象不動産の確認等については、価格時点に近い時点の確認資料等をできる限り収集し、それを基礎に判断すべきである。
将来時点の鑑定評価
将来時点の鑑定評価は原則行うべきでありませんが、全面禁止されているわけではありません。
将来時点の鑑定評価の留意点
将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握、分析及び最有効使用の判定についてすべて想定し、又は予測することとなり、また、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、不確実にならざるを得ないので、原則として、このような鑑定評価は行うべきではない。
ただし、特に必要がある場合において、鑑定評価上妥当性を欠くことがないと認められるときは将来の価格時点を設定することができるものとする。
価格または賃料の種類
価格の種類
価格の種類
不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。
なお、評価目的に応じ、特定価格として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。
正常価格
正常価格とは
正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格をいう。
合理的と考えられる条件を満たす市場
この場合において、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、以下の条件を満たす市場をいう。
条件1: 市場参加者の合理性
市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること。
なお、ここでいう市場参加者は、自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、慎重かつ賢明に予測し、行動するものとする。
① 売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。
② 対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。
③ 取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。
④ 対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。
⑤ 買主が通常の資金調達能力を有していること。
条件2: 取引形態の合理性
取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような特別なものではないこと。
条件3: 相当の市場公開期間
対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。
限定価格
限定価格とは
限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。
限定価格を求める場合 ①
借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
限定価格を求める場合 ②
隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
限定価格を求める場合 ③
経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合
特定価格
特定価格とは
特定価格とは、市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする鑑定評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさないことにより正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することとなる場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
特定価格を求める場合の例示
特定価格を求める場合①
各論第 3 章第 1 節に規定する証券化対象不動産に係る鑑定評価目的の下で、投資家に示すための投資採算価値を表す価格を求める場合
特定価格を求める場合②
民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、早期売却を前提とした価格を求める場合
特定価格を求める場合③
会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、事業の継続を前提とした価格を求める場合
証券化対象不動産で特定価格を求める場合
証券化対象不動産で投資採算価値を表す価格を求める場合の留意点
この場合は、投資法人、投資信託又は特定目的会社等(以下「投資法人等」という。)の投資対象となる資産(以下「投資対象資産」という。)としての不動産の取得時又は保有期間中の価格として投資家に開示することを目的に、投資家保護の観点から対象不動産の収益力を適切に反映する収益価格に基づいた投資採算価値を求める必要がある。
投資対象資産としての不動産の取得時又は保有期間中の価格を求める鑑定評価については、上記鑑定評価目的の下で、資産流動化計画等により投資家に開示される対象不動産の運用方法を所与とするが、その運用方法による使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。
なお、投資法人等が投資対象資産を譲渡するときに依頼される鑑定評価で求める価格は正常価格として求めることに留意する必要がある。
早期売却価格を特定価格として求める場合の留意点
民事再生法に基づき早期売却を前提とした価格を求める場合の留意点
この場合は、民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、財産を処分するものとしての価格を求めるものであり、対象不動産の種類、性格、所在地域の実情に応じ、早期の処分可能性を考慮した適正な処分価格として求める必要がある。
鑑定評価に際しては、通常の市場公開期間より短い期間で売却されることを前提とするものであるため、早期売却による減価が生じないと判断される特段の事情がない限り特定価格として求めなければならない。
事業継続を前提の特定価格を求める場合の留意点
会社更生法又は民事再生法に基づき事業の継続を前提とした価格を求める場合の留意点
この場合は、会社更生法又は民事再生法に基づく鑑定評価目的の下で、現状の事業が継続されるものとして当該事業の拘束下にあることを前提とする価格を求めるものである。
鑑定評価に際しては、上記鑑定評価目的の下で、対象不動産の利用現況を所与とすることにより、前提とする使用が対象不動産の最有効使用と異なることとなる場合には特定価格として求めなければならない。
特殊価格
特殊価格とは
特殊価格とは、文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格をいう。
特殊価格を求める場合を例示すれば、文化財の指定を受けた建造物、宗教建築物又は現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産について、その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合である。
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